課題曲解説
⑴ボーカル
Dua Lipa
『Dance The Night (From Barbie The Album)』
いつもであればジャズボーカルから1曲選ぶところですが、今回はビルボードチャートでも上位につける現代ポップスをチョイスしました。デュア・リパというイギリスの女性シンガーソングライターの最新シングルで、彼女は映画「トップガン・マーヴェリック」のエンドロールで使用される楽曲も歌っていた人気アーティストです。現在の楽曲らしくエレックトリックシンセサイザーによる強力なキックドラムとエレクトリックベースがリズムを作っていきますが、迫力を求めすぎて低域の音量が大きくなり、結果的に迫力一辺倒ならないようリズム感を出すことに気を遣っていただきたいです。そしてボーカル曲ということで気になるのは音像定位です。ダッシュボード上のセンター付近に定位させたいところですが、バックミュージックに対する前後の定位感(どれだけ前へ出すのか、もしくは引っ込めるのか)そして口元の”適度な大きさはチェックポイントとなります。音楽的には適度な迫力とリズム感を出しつつメロティアスに聞かせて欲しいです。
⑵ クラシック
Yuja Wang
アルバム「Rachmaninoff: The Piano Concertos & Paganini Rhapsody」から
トラック 3『 Rachmaninoff: Piano Concerto No. 2 in C Minor, Op. 18 – III. Allegro scherzando』
コンテストの課題曲として使われることの多い協奏曲ですが、聞かせどころとしてはオーケストラの表現とソリストの表現の2つ、つまり両者の総合的な表現力が求められます。ここではクラシック再生の基本から説明したいのですが、オーケストラが金管楽器、木管楽器、打楽器など複数のアコースティック楽器で構成されているということで、まずはソースに忠実な帯域バランスを求めたいのです。高域や低域が出過ぎていたりするとバランスが崩れアコースティック楽器らしい質感が出なくなってしまうこと、楽曲の意図と反して特定の楽器が目立ってしまいます。サウンドステージは左右均等に、かつ適度な広さを持って表現してください。そして楽曲を通じて音量が小さいパートと音と大きいパートの差(ダイナミックレンジ)をしっかりと聞かせてください。それができたらT/Aを含む調整の精度をあげて各楽器の粒立ちや絶対的な情報量を上げて欲しいです。(ダイナミックレンジ表現についてはT/Aの良し悪しも左右します)(個人的な印象ですが、メジャーコンテストで必ずクラシックが課題曲になるのは、これらの要素を全て含んでおり、取り組みがいがある楽曲だということが理由です)上述した項目を上手くクリアーしていけばオーケストラの中にソリストのピアノが浮かび上がる良質な音楽が再現できますし、今回はもう1曲がかなり現代的な表現なので普段クラシックを聞かない方でもチャレンジのしがいがあると思います。